「男を飼う@」(梶山季之)

ジョージ・F・シナモンは、少年時代にマフィアのボスに女装させられ、犯された経験をもつ女装子です。そして日本人の魚住アキラもアメリカで有名な美容師ですが、彼もまた女装マニアだったのです。そして、彼ら(彼女らは)いつしかロスのシナモンの豪邸で夢のような女装同棲生活をはじめています.....(コーイチロー記)

 ジョージ・F・シナモンは、夢のような毎日を送っていた。
 日本人−魚住アキラとの同棲−
 それは、これまでにない、甘美な日々であった。
 広いベットの中で、抱き合って眠っている2人は、目覚めると、お互いの瞼や、鼻の頭や、唇どに接吻し合う。
 それが、朝の挨拶だった。
「朝食は?」
 とジョージが訊く。
 「いつものやつでいいよ」
 アキラは微笑する。
  二人は、一日交替で、食事をつくっていたのだ。
 アキラは、黒ビールに生卵の黄身をーつ落し、ぐぃーンとー息に飲む。
 それが朝食だった。
 ジョージは大食家で、目玉焼や、プレーン・オムレツをつくり、トースト二枚、コーヒーを飲まないと、どうも起きたような気がしない。

 朝食が済むと、二人は湯に入る。
 ヒゲを剃り、足の雁毛を剃るためだ。
 ジョージはシャワーだが、アキラはバスに入らないと気が済まない。
 湯からあがると、二人は、女物のナイロン・パンティを選び合う。
 「あ、これがいいわ。なんて悩ましいんでしよう」
 「これ、素敵よ。身体が疼くいちゃう!」
 などと、他愛のない会話をかわしつつ、パンティをはくとニ人は大きな三面鏡の前に坐るのだ。
 髪の毛は女の子にように長いし、胸の膨らみさえあれば、パンティ姿でも、女性としかみえないだろう。
 二人は念入りに化粧する。
 目張りとか、マスカラはおたがいに協力し合って、気に入るまで化粧をするのだった。
 
 化粧がすむ。
 次は衣装選びである。
 金にあかせて買い求めた下着類、洋服、それに靴や、バッグや、アクセサリーなどが、一部屋に詰まへている。
 「あたし、今日はピンクで統一するわ」
  とジョージが云えば、
 「しゃあ、私はブルーにしようかしら」
 とアキラが答える。
 ブラジャーを着け、コルセットを着け、ストッキングをはくときが、二人の一番幸せなときだった。
 「あなた、靴はなににする?」
 「ピンクだから、真ッ赤なエナメルのヒールはどうかしら?」
 「そうね。あなたは、このあいだ買った、白と黒のコンビにすれば?」
 …な工合である。
 二人は、洋服を着て、ハイヒールをはき、お互いの服装を点検し合うと、
「綺麗よ、惚れ惚れするわ」
「あなたこそよ。犯しちゃおうかな!」
 などと批評し合う。
 

 二人は、連れ立って家を出る。
 スポーツ・カーに乗って、銀行に金を下ろしに行くことから、二人の日課がはじまるのであった。
 ロスアンゼルスの日本レストランへ連れ立って行ったり、中国料理店で、昼食をとる。
 誰も、女としか思わない。
 マニキュアされた長い爪。
 イヤリングや、ブローチ。
 おそらく人々は、女優志願の女の子か、モデルくらいに思ったことであろう。
 二人は、デパートや靴屋などを歩いて、夕方までの時間を潰す。
 ときには、映画をみに行くこともある。
――黄昏が、忍び寄るころ。
 二人は、一流のレストランに姿を現わすのだ。
 盛装したニ人は、どこでも人目をひく存在であった。
 「お近づきのしるし....」
 と、シャンペンを贈りも図々しく同席を願う紳士もあれば、
 「今夜、付き合って下さい」
とボーイにカードを持たせてよこす田舎紳士もいた。
 二人はゾクゾクしてくる。
 女と思われたことが、嬉しいのだ。
 
 食事のあと、ゴーゴー酒場へ行く。
 果して、注目の的である。
 ドライブに誘われる。
 酒を奢ってもらう。
 云い寄る男たちは、二人の胸の膨らみと、すらりとした脚に、目をつけているのだ。
 そして美しい顔とに――――。
 だが、それらのプロポーズ行為は、すべてニ人の前戯の役目しか果さない。
 ただ二人は、女と見間違えられ、云い寄られることで、恍惚となり、欲情の火を強く燃え上がらせて行くだけなのだ。

 ある段階が来る。
「アキラ。あたし、もう我慢できなくなっちゃったわ」
「あたしだって、もう極限よ.......」
 アキラが、囁き返す。
「帰ろうか」
「うん、帰ろう」
「今夜は、たっぷりよ?」
「うん、たっぷり、虐めたげる!」
 二人は、一目散にスポーツ・カーに乗り込んで、ジョージの家に帰って行く。

 二人は縺れ合いながら寝室へ行き、洋服だけ脱いだスリップ姿のまま、お互いをまさぐり合うのだった。
 下着を剥ぎ、お互いを含み合ったり、愛撫し合ううちに、どうにもならないたかまりが訪れる。
 「ああ、あなた、来るわ、来るわ」
 ショージは泣かんばかりである。
 「ああ、往生しろ、往生しろ!」
 アキラは叫び、二人はどちらからともなく唇を吸い合う。
 恍惚の大きなうねりが訪れ、二人は身体を痙攣させ合ったあとも、蛇のように絡み合って接吻しつづけている。

 
   梶山季之著「男を飼う」(集英社文庫刊)から引用

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