「美男奴隷A」
(梶山季之)
「千絵さま、お願いがございます」
安雄は言った。
「なんだえ?」
「ロープで私をぎゅうぎゅう縛って、ローソクで虐めていただきとう存じます」
藤島安雄は言った。
「ローソクで虐めるって、どういうふうにするのじゃ」
「熱い蝋のしずくを額や瞼に垂らしたり、お尻の穴に垂らしたりするのでございます」
安雄は告げた。
「面白そうね」
千絵は含み笑い、
「ロープを買っておいで。縛り方を研究しておくから・・」
と言ったのだった。
夜なので、あいている荒物屋を探すには、かなり手間どった。
太目のローソクと、ロープを買って戻ると、千絵は、
「人間燭台というのを考えたわ」
と言った。
安雄は、左右の手を外から両膝をくぐらせ、股ぐらに突きだしたまま、ロープで固定させられた。
「ハイヒールをお履き...」
千絵はそう命じて、面白そうにローソクを六本とりだしている。
彼は不自由な格好で、いざりながらロッカーへ行き、口でドアをあげて、苦心して踵の高い婦人靴をつけた。
そして、ごろごろ転がりながら戻ってくると、千絵は、
「背中をつけて、足をお上げ……」
と言う。
なるほど、ハイヒールが燭台代わりになるのだった。
「両手にこれをもって!」
千絵は、両手両足のローソクに、火をつけた。
「あとニ本は?」
安雄はきく。
「二つの口に、入れるんだよ」
千絵は、一本を彼の口にくわえさせると、マッチの火を移し、残るー本を、こともあろうにアナルに突き立てたのである。
「ううつ!」
藤島安雄は低くうめいた。
人間燭台。
なんという奇怪な遊びであろう。
ひっくり返されたヒキガエルみたいな格好で、ローソク台にされている男。
千絵は電灯を消した。
闇の中に、六つの炎が揺らいでいる。
千絵は、イスを持って来て、ゆっくり腰をおとすと、読みかけの本のぺージをひらくのだった。
両手のほうは、比較的に安定している。
困るのは、二つの口のほうであった。
垂直を保つことが、むずかしいのである。
そうでなくとも、両手を太腿に緊縛され、両脚を上にあげるという、むりな姿勢なのであった。
だからその姿勢に耐えながら、ローソクの垂直を保とうとすれば、苦しい。
苦しいから体が動く。
すると勢い蝋が、人間のもっとも皮膚の弱い部分とされている蟻の門渡りだの、唇の回りに滴り落ちるのである。
熱いけれど、叫べない。
口には、ローソクがあるのだ。
すると、その口のローソクが大きく揺らいで目や鼻に、その蝋のしずくを振りまくのであった。
ハイヒールの尖った種に、突き刺されたローソク。
これも用心しないと、不安定である。
ときどき、大きく揺らぐのだ。
すると臀部あたりに、熱い蝋が散る。
「あ、う! あ、うつ!」
安雄は、唖のようにうめいた。
ローソクは燃えるに従って、短くなってゆく。
足のほうはハイヒールを履いているから、それほどでもない。
しかし、アナルに突き立てられたローソクは、じりじり、じりじりと寸を詰めながら、熱い熱い蝋のしずくを、したたり落としてくるのである。
口のほうも、そうだった。
「あ、う! あ、う!」
安雄は唸った。
しかし千絵は平然と、本を安楽イスで読みつづけている。見向きもしないのだ。
「あ、うつ! あ、うつ!」
唸るたびに、ローソクが倒れかかり、蝋のしずくが散った。
彼の顔は、蝋だらけである。
いや、顔といわず、太腿から臀部、そして胸が、蝋のしずくで埋まってゆく。
千絵は立ち上がり、外国産の婦人タバコをもってきた。
「あたし、タバコは吸わないんだけれど、せっかくだから…・・・」
彼女は、そんなことを言いながら、アナルに突き立てられたローソクの炎に、ゆっくりとくわえたタバコを近づけるのである。
なんと小憎らしい仕打ちであろうか!
『美男奴隷』(梶山季之著 光文社文庫)から引用
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