「シーメール・レッスン」
(松本富雄)
この『シーメール・レッスン』には衝撃を受けました。
これは1994年に出版され、SF作家・松本富雄氏が女性・男性・ゲイボーイを問わず、好奇心と快楽のおもむくままに"全方位セックス"を展開した経験からの書いたエッセイです。当然女装子や女装バーが「あっけらかん」と書かれています。
女装者愛好という嗜好は変態そのもので、アンダーグランドでしか語れないという「陰」の意識を持っていました。しかし、そんな自分の意識を180度変えてくれたのはこの本の明るさと情報量です。
どんなエッセイかは自分で手に入れて読んで見てください。
ケイちゃんは素顔だった。でも学生の分際で女性ホルモンを飲んでいた彼は、女の子だったり美少年だったりしていた。
けっこうビールを飲むのだ。お母さんのようになりたいと、小さいころに思った。なんで自分が女の子じゃないんだと悩んだ。高三のときにポルノショップで、『くいーん』を知った。受験に成功して上京した。憧れの『エリザベス会館』の前を行ったり来たりした。ドキドキしていた。ある日、『エリザベス』に入店した。でも、女装品売場でその種のグッズを買っただけで、出てきてしまった。女装サロンに登頂するまで、二年近くかかった。そんなことを、ビールをついでやりながら、女の子の美少年から訊き出した。
「と、いうことは、女の子になりたいということは、たとえばお嫁さんになって、だれかに愛されたいということ?」
「結婚して、子供を産みたい」
母親に憧れていたせいか、ビールで酔っ払ったせいか、ケイちやんはあらぬ言葉を口走った。
そりゃ無理だ。
「おもしろい店があるんだけど、行ってみない? 社会見学にもなるよ」
「どんな店?」
「SMバー」
男の子の美少女のきれいな顔に、ポッと恥じらいの表情がー瞬浮かんだ。その手の観察力には自信がある。過当競争のコンピュータ業界で十数年生き抜いてきた元・営業マンは、自然に鋭敏になる。だって、営業は一面、お客と競合他社との心理戦である。
それに 〃彼女たち〃との実戦や『くいーん』のメッセージ欄や写真から、シーメールたちの中にはマゾヒスティックな欲望を持っている子がわりと多いことを悟っていた。
「べつに怖くなんかないよ。見てるだけだっていいんだ」
男の子の美少女は同行に同意した。それは同伴することと同類語だ。同室するというサインだ。同じ裸になって、同体でベッドに倒れ込んでしまう。(中略)
ぼくはタクシーを拾って、某所のSMバーへ向かった。タクシーの中で、男の子の美少女は取り組みもしていないのに、SMシーンの想像だけで息が上がっていた。上品な横顔のラインの聖母的な優美な鼻の下の小さな唇から、ときおり「ふーツ」と溜め息を漏らしているのに気づいた。酒のせいかな、との考えも頭をよぎったんだけど、「ワンチャンスをモノにしろ」「タイミングとスピード」「シンプルなアプローチ」、営業も同じだ。
ぼくはシンプルに左腕を 〃美少女〃 の腰にまわした。ほっそりしていた。拒まなかった。ついでに手首をふって股間を試してみた。早立ちしていた。しきりなおし。
もうあとは簡単だった。SM緊縄バーで、男の子だか女の子だかわけのわかんない美しい生き物の出現に、チラチラと男女諸兄の視線を浴びた。ビール二、三本を飲んだあと、ぼくたちはプレイルームへ直行した。
ぼくはケイちやんを縛っちゃった。亀甲縛りというSMの基本の技だ。縄でキュッキュとケイちゃんの白いモチ肌に赤色の縄目を食い込ませていった。ケイちゃんには女性ホルモンが作ったちっちゃなおっぱいまであった。息は荒かった。まだ亀甲縛りは未完成なのに、絶え絶えだった。
ぼくは下腹に下りて、ぴんぴんに立っている 〃美少女〃 のペニスを赤い縄で絞めあげ、肛門を通過したあと、背中にまわった両腕の手首を縛った。完全拘束、亀甲縛りの完成だ。
泣いた。おかしくなっていた。もうメチャクチャだった。流麗な体をそらし、背骨を弓なりにしてのけぞっていた。
「あん、ぎゃあう、ギャッ、あ、うん…」
パチパチと見ていた客たちから拍手が来たくらいの激しいプレイだった。
ピース。
それからイジワルになってしまったぼくは、ある中年の紳士を手で「おいで、おいで」してしまった。アヌスとの結合をしたまま、かなりサディスティックだった。ケイちやんの被虐的快感を、ぼくはよく理解していた。
パンツをおろした紳士は、隆々と立っていた。それを 〃美少女〃 に咥えるように命じた。初めはイヤイヤしてたんだけど、ついにぼくの命令に服従して、ケイちやんは可愛い唇で鋼鉄を呑み込んだ。バックはぼくが攻めている。
しかも亀甲縛りで全身を拘束され、身動きもままならないから、紳士が両腕で彼女の上体を起こして、股間に奉仕させていた。
突然、「あン!」
と、顔を横に振ってペニスを吐き出し、ケイちやんはイッちやった。
ぼくは 〃彼女〃 をやさしく抱きしめてやった。
松本富雄著『シーメール・レッスン』(情報センター出版局刊)から引用