馬喰町でお買い物

 のぞみは大学一年生。学部は文学部で女の子が多い上、身長も160cmくらいだし、髪も長くしているから、女の子とよく間違われるらしい。そんな彼女とはインターネットで知り合った。彼女の希望は「女装をしてみたい」だけど、でもランジェリーや化粧品はまったく持っていないということ。自宅から大学に通っているので家では無理なんだって。そんな彼女に「クラブの合宿に行く」といって、外泊許可を取らせてのデートにこぎつけた。待ち合わせは総武線・浅草橋駅東口。なんでこんな場所なのかというと........

 昔、テレビ東京でやっていたASAYANは、最初は浅草橋ヤング洋品店という番組名だった。ルー大柴が司会をしていたけど、基本はファッション番組。何で浅草橋というかと浅草橋には繊維問屋の町・横山町があるからだ。ここに女装初体験希望ののぞみを連れて俺はやってきた。彼女はフェイクレザーのジャケットにパンツというモノセックスな服を着ているけど、おれはジャンバーにクラッチバツクという地味な格好をしてきた。

「あ、おはよう」
「あっ、おはようございます.....」
「浅草橋なんてはじめてかな?」
「ええ、総武線も秋葉原からこっちはきたことないですから....」
まあ、それはそうだろう。
「まっ、今日はのぞみに思う存分お買い物させてあげるからさ」


 浅草橋駅を下りると早速いろいろな衣料品問屋が軒を連ねている。もちろん婦人衣料が多い。店頭にストッキングやスパッツを並べ、奥には女性下着というのが大抵のパターンだ。その店の前を通る毎にのぞみは目を輝かせて覗きこんでいる。
「いいよ、入ってきて。待っててあげるから」
「えっ、でもはずかしいから....」
とどうも敷居をまたげないらしい。

 浅草橋から浜町に向かって京葉道路を越えると、そこが横山町となる。店の両側はもう問屋さんばかりだ。洋服だけではなく、靴下、タオル、寝具、販促物などなど町の洋品屋さんが商売するために必要なものは何でも売っている。初めてくるひとはこの光景にびっくりするらしい。原宿や新宿がリテールの町とすれば、ここはホールセールの町なのだ。
仕入れを終えて大きな紙袋を抱えた小売店のおじさん・おばさんが忙しそうに地下鉄の馬食横山駅に入っていく。
横山町の中心といってもいいエトワール海渡の大きなビル。この女性アパレルの大手卸も取引先証がなければビルの中には入れない。


「ここだよ」
 おれがのぞみを連れてきたのはエトワール海渡ビルの手前にある井田商店だ。ここは女性下着の専門店で卸だけど小売もしてくれる。店は3階建てになっていて、そこにオーソドックスなものから、大人のおもちゃ屋で売っていそうなセクシー下着まで取り扱っている。
 そしてなによりもいいことは、男がここで女性下着を買っても何にもいわれないし、変な目で見られることもない。みんな仕入れに来ていると思われるからだ。だから俺は小売店のオヤジさんの定番であるジャンバーを着てきたのさ。

 おれはのぞみの耳元でささやいた。
「いいかい、この店ではね、『俺は仕入れに来たんだぞ』という大きな顔をしていればあやしまれることはない。どうどうと下着を手にとってチェックしていいよ。女性客が来てもそれは小売店のご同業だ。ただ、あまりひとつの商品を買おうか買うまいかと迷っていると商売の邪魔になると嫌がられるから、パッパとカゴに入れてしまうこと。なに、値段はすごく安いから安心していいよ」

「...、は、はい...」
「大丈夫かなぁ、顔が赤くなっているよ。ちょっと見たところじゃ、のぞみはMサイズ、ブラは80Aでいけるとおもうよ」
「.....」
「じゃ、いってらっしゃい。好きな下着、欲しい下着を思いきり買ってきてね。おれは後ろでみているから」
わたしはポーンとのぞみの背中を押して店の中に入らせた。


 一時間後、のぞみのお買い物が終った。買い物カゴがいっぱいになっているよ。
・フェミニンな刺繍レースの入ったブラとショーツセット(クールピンクでかわいい)
・ボディスーツ(若ければ必要ないと思うのだがどうしても欲しかったそうだ、色はベージュ)
・ティーン用のシンプルなブラ(高校生が使うようなもの、色は当然白)
・ショートガードル(ソフトタイプで、色はチャコールグレー)
・コットンショーツを10枚(これはいろいろ、おとなしめから大胆まで)
・Tバックショーツ(冬だったていうのに冷えたらどうするんだろ)
・サニタリーショーツ(もう何もいいません、色はブルー)
・ミニスリップとキャミソール(色はイエロークリーム)
・ストッキングとタイツ(ブラウン・黒・ベージュなどなど)
・そしてアウターとしてニットのミニワンピース(色はグレー)

 ま、これだけ買えば井田商店さんも気をよくしてくれるだろう。ジャンバーの俺が支払を済ませて、適当な店の名前を言って領収書を切ってもらった。もうのぞみはルンルンだ。そして浅草橋駅の近くにあるディスカウントショップで口紅・ファンデーション・アイライナーを買った後、レンタカー屋でシビックを借りて箱崎から首都高速に乗った。


 首都高速から東北道を経由して、会津高原のホテルについたのはもう夕方だった。
 ホテルはスキー場の目の前にあるが、スキーシーズンでない季節はガラガラだ。今夜もどこかの婦人会の旅行で7−8人が泊まっているだけだとフロントが言っていた。このホテルは埼玉県A市が経営する公営のホテルで、部屋と設備がきれいでサービスがよく、そして宿泊料も安いということがない。それに温泉付だ。

 部屋に入ると、のぞみは早速買い物袋を開けてみたそうだった。それはそうだろう。浅草橋で女性下着のお買い物してから俺は一度も開けさせてなかったのだから。まあ、温泉宿の夜は長いのだから、あせることはない。
「俺は温泉に入ってくるよ、運転で疲れたし...。のぞみは荷物の整理がしたいんだろ」
のぞみはこっくりとうなづく。
「じゃ、おさきに...」

 30分も弱アルカリ性の温泉を堪能した。考えてみれば男性客は俺たち二人だけなので、今夜は大浴場は貸し切りみたいなものだ。
そろそろビールが飲みたくなったので、浴衣に着替えて脱衣場を出ようとすると、入れ替わりにのぞみがやってきた。手にはやっぱり紙袋を持っている。何をするかはお見通しだけど、まあ何もいわないことにしよう。「もうすぐご飯だからあまり長湯はしないようにね」とだけいって部屋に戻った。

 ホテルが空いていたせいか夕食は部屋食だ。宿泊料の割には豪華なメニューが二人分テーブルの上に並べられている。
「食事が終りましたら、フロントにお知らせ下さい。片付けとお布団を敷きにまいります」
係の女性が出ていくと、俺はお膳を差し向かいから並んで食べるように変えた。このほうが何かと便利なのだ。
 湯上りで浴衣を着たのぞみは艶っぽい。男の子の気配は見事に消えている。反対に女のフェロモンのようなものさえ感じる。洗い髪からはシャンプーのかおりがして、男心をくすぐる。すこしファンデーションもつけてきたんじゃないかな。そして浴衣の下に何をきているかは分かるけど、まあ、それはいわないことにしよう。


「お酒をお注ぎしましょうか.....」
「あっ、ありがとう。気が利くね」
「サークルのコンパでよくやっているから....」
「のぞみクンも飲めるんだろ」
「少しだけですけど......」

 まるで会社で新入社員の女の子との会話だよ。正直な話、俺ぐらいになると年の離れた女の子と話をするのは苦痛でもある。でもそれが女装子なら話が弾むんだから不思議だ。
 男女が親密になる距離というのがあって、それは70センチだという。スキー場のリフトやディズニーランドの乗り物はほとんどがその距離になっている。俺たちの場合は熱燗がその距離を縮めた。ぎこちなく座布団に座っていた二人もやがて肩がふれあう距離になり、そして酔うほどにのぞみは俺に凭れかかり、おれはのぞみの肩をやさしく抱いてあげた。

「『浴衣のきみはすすきのかんざし、熱燗徳利の首つまんで...』っていう唄があったっけ」
「すてき....」
「のぞみが生まれる前にはやったんだけどね」
「誰がうたっていたの?」
「信じないだろうけど、吉田拓郎....」
「あのキンキと出ているひと?」
「そう。そして歌の最後は『もう飲みすぎちまって君を抱く気にもなれないみたい』なんだ」
「そんなの....イヤ.....」

 のぞみこの反応は意外だった。この瞬間を外してはならない。俺はのぞみの唇に自分の唇を重ねようとした。のぞみの心臓のドキドキが伝わってくる。
 そのとき、係の女性がドアをノックした。
「お膳を下げにきました」。
 うーん、バツドタイミング....。


 部屋に夜具が二組並べて敷かれている。もう一度温泉に入った俺はソファでビールを飲み、のぞみは浴衣を着てドレッサーの前で髪を整えている。
「そろそろ電気を消してくれないか」
「ええ...」

 電気を消してのぞみとおれは別々の布団に入った。
部屋が暗くなると渓流の音が聞こえてきた。
枕元のスタンドのあかりが妙に艶かしい。
「俺のことは嫌いじゃないよね?」
「うん.......」

 のぞみはこっくりした。
 それを聞くと俺はのぞみに微笑みかけて
「俺はのぞみのことが好きになったみたい」
と囁いき、布団の下から手を伸ばして、のぞみの手を握った。
 のぞみは驚いたようだが、拒絶感はない。
 顔を合わせていないが、むしろこの言葉をきいた満足感めいたものがあったような感じた。
 俺は低く云った。
「眠れるようにしてあげようか?」
「眠れるように?」
 のぞみがそう問い返すと、俺はうなづきのぞみの布団に入っていた。我ながら素早い。
「なにも考えなくていいの。俺のする通りにしていればいいから」といいながら、素早く  のぞみのあごの下に左腕をさし入れた。と同時に右手を浴衣の合わせ目から忍び込ませた。
 のぞみはびっくりして身を捩った。
「こわくないよ。優しくしてあげるから」
 そういいながら、俺は巧みに浴衣の裾を開いた。


 のぞみは何を穿いているかと思ったが、今日買った刺繍レースの入ったブラとショーツセットをつけている。クールピンクが可愛くもあり、セクシーでもある。そして俺はそのショーツの上からのぞみの最も恥ずかしい部分に触れ始めた。

「イヤン....」
 のぞみは反射的に拒絶の言葉をいった。でもこの言葉を間に受けていたら何も先にすすまない。左手でのぞみの顔をこちらに向けると俺は唇を強引に奪った。強引と言ったが、先ほどはいい雰囲気になっていたから、さほどの抵抗はない。
「女の子とキスしたこともないんですよ」のぞみはドライブの途中にこういっていたっけ。まして女性となって男性とキスするなんて...。
それだけにキスの味が強烈だし、のけぞるような快感を唇に味わっているはずだ。

「アアン....」
 のぞみは低くうめいた。
「これがキッスの味.....」
 彼女は、そう思ったはずだ。

 一日一緒にいて、だんだん好きになりつつある俺からキスされている。このことが彼女を異常に興奮させている。 俺も百戦練磨である。女装者をとろけさせるくらいの甘美なキスのテクニックは持っている。あせらずに丁寧に舌を絡め同時にうなじや耳たぶを軽くタッチする。背中やあごにも指を這わせる......。これに耐えきれずのぞみがあえぎ始めたときを逃さず、ショーツのなかに蛇のように手を忍び込ませた。そこは彼女の興奮を露にしていた。
「あ、やめてください.....」
 のぞみは叫んだ。恥ずかしいのだろう。しかし俺はのぞみが悶え狂いたくなるような行為を止めようはしない。


「気持ちいいだろ?  もうすぐ耐らなくなっていくよ……。
 二人は向かい合っていたのだが、より動きやすくなるためにおれはのぞみを組み敷いた。「じっとしていて俺に任せておけばいいんだよ...。 できるだけ声をあげるんだよ」
と低く響く俺の声で彼女の耳たぶに囁きつづけた。
 この声が彼女の快感を増幅する。女装には憧れていただろう。でもこうしてオトコの子の自分が年上の素敵な男性(ということにしてください、話の進行上)に抱かれている。それは理性では拒否すべきだ。でも身体中から湧き上がる快感がその拒否すべき行為を受けいれようとしている。のぞみのなかではこの葛藤が起こっているはずだ。しかし、その戦いも快感が理性を打ち負かすのに時間はかからないだろう。その証拠にのぞみは足の親指を反らしたり、内側に折り曲げたりしだした。

「気持ちいいだろう? 死ぬほど気持ちいいだろ? もっともっと気持ちよくなるよ......」
 俺は熱い息を彼女の耳もとに吹きかけながら、悪魔のようにたえまなく囁きつづけた。聴覚を刺激するのも女装子をエクスタシーに導く重要なテクニックだ。轟きかけてくるのだった。
「きれいだよ、のぞみ.....。他の女の子に負けないくらい綺麗だよ.....」
「ブラとショーツがすごーく似合っているよ.....。セクシーだよ....」

 のぞみの身体は火照っているように熱い。しかしときどきブルブルと震え出している。のぞみのなかに隠れていた女性の快感中枢がベールを脱いで暴れ始めているのだろう。そのシンボルがショーツのなかにある。その"クリトリス"は熱くかたくなり、その尖先からは愛液をたらたらと流れつづけている。そこへ俺は右手でソフトな集中攻撃をかけていた。

「ああ......、 やめてください.....」
 のぞみは口走った。
「だめ、だめ。ほら、だめでしょ?  やめたら、だめでしょ......。たまんなくなっちゃうよ....」
 彼女の哀願を無視して、彼女を地獄(天国?)に導く悪魔のように唇を吸い、ブラをずらして乳首をコリコリとつまみ出した。最初は柔らかかった乳首も俺がつまみを回すようにコリコリしていると次第に固くなり、それとともに彼女の喘ぎ声も大きくなってくる。そう乳首はオトコの子でも感じるし、乳首は"クリトリス"と敏感につながっているんだ。


「ア..アアン....」
のぞみは首筋に力をこめた。もう、どうにもガマンできなくなったようだ。
「もう、だめなのかな? ほら、だめだろう? かまわないのよ、大きな声を出して泣いてごらん....。オンナの子のように高いエッチな声を出してごらん....。もっともっとエクスタシーが高まるから.....」
 俺は催眠術師のようにこんな台詞を囁き続け、そして乳首と"クリトリス"への愛撫を続けた。耳たぶも軽く噛んであげた。

「アーーーー、ヘンよ、ヘンになっちゃう......」
「イヤイヤ........。目の前が真っ暗になっちゃう......。ふかい穴におちていっちゃうよぉ.........」

 もう女の子の声となっていた。エクスタシーを感じている「オンナ」の声だ。俺の下でブルブルと身体を痙攣させている。口を大きくあけてハアハアとあえいでいる。
 ショーツに包まれた"クリトリス"に集まってきた身体の中の電流がもう限界にきている。それが俺の最後の愛撫でドアを開けてのぞみの身体中に奔った。
そして次の瞬間、のぞみに生まれて初めての快感がやってきた。
 ポーンと空中に投げ出されるように身体が浮いたと同時に目の前が真っ白になっってしまった。(ということだ、後で聞いたんだけど)
 怖くなったのぞみは俺の身体にしがみついた。背中に手を回し爪を立てる、足は俺の腰に絡み付けている。まさにのぞみと俺が合体しているようだ。
「アン、アン、アン、アン.....、いっちゃう、いっちゃう、いっちゃう」
 そしてついにのぞみは「女のオルガスムス」を体験してしまった......。

 温泉宿の夜は長い.....。それから何度ものぞみは喜悦の声を上げ身体を震わせていったのだった。若い彼女が疲れ果てやっと眠りについたのは、深夜2時を過ぎようとしていた。 (完)

               
                   

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