ホリディ・イン
金曜日の夜、紺のリクルートスーツを着た悠希が自分の部屋に戻ってきたのは21時を過ぎていた。悠希の就職活動は長引き、こんなに暑い時期になっていた。せっかく新宿の伊勢丹で凌に見立ててもらったリクルートスーツも汗で皺だらけだ。
悠希は上着をハンガーにかけてから、ゆっくりとスラックスを脱いだ。その下には脱毛処理をした綺麗な脚がサブリナの夏用ストッキングに包まれていた。男の子だが悠希はストッキングを穿くのが日常になっているので、スーツ姿でも、その下にストッキングを穿かないとかえって違和感がある。特に今日のように暑い日は、スラックスの裏地に脚がつかないし、夏用のパンティストッキングは涼感加工がされているので、むしろ快適なのだ。それに、サポートタイプのパンティストッキングだと、説明会を立ちっぱなしを聞いているようなときでも疲れにくい感じがする。ストッキングは悠希にとって第二の肌ともいえるようになってきた。
アロマの香りを焚きこめて、悠希はゆっくりとシャワーを浴びた。明日から週末なので、1週間ぶりに女の子になれる。髪をリンスし、ふんわりと泡立てたボディソープで少し膨らんでいるバストを丁寧にマッサージをしていると、ようやく「女の子」の気分になってきた。
30分後、髪を乾かし、フェイシャルのお手入れをし終えた悠希はランジェリーボックスから、真新しいパステルイエローのキャミソールとレースをあしらった白のショーツを選んで、ベッドに入った。
「今日の面接官の人はいやらしい目で僕のこと見ていたよね。スーツの上からでもバストが膨らんでいるのがわかるのかな?」
「会議室から出るときも僕のお尻を見つめているんだよね。視線でわかるよ」
「いやだなあ、はやくこんな就職活動なんか終わりにしたいよ。凌さんに思い切り.....」就職活動のストレスと疲れで悠希はへこんでいた。こんなときこそ、恋人の凌の腕の中で眠りたいのだ。
でも凌はドイツに長期出張している。来年のワールドカップの事前調整なのだ。
「凌さん...、会いたい...」
携帯でメールを打ってみた。しかし返信はこない。
* *
凌が成田からドイツに旅立ったのは半月前だ。
「ぜったい見送りに行くからね」
「無理無理、9:45のルフトハンザだから、7:45までにチェックインしなければいけないんだぜ。おねぼうの悠希には早起きはできないよ」
「凌さんもおねぼうのくせに、大丈夫なの?」
「それがさ、会社が世話を焼いて、ホリディイン東武成田にドイツにいく奴、全員の部屋を予約しちゃったんだよ。それにご丁寧に汐留から会社のマイクロバスで送ってくれるというんだ」
「じゃ、最後の夜は一緒にいられないの......」
「ごめん....」
「.........」
「ごめん...」
「会社のお仕事だものね、仕方..ない...よね....」
こういい聞かせるように悠希はつぶやいたが、寂しくなって、悲しくなって、涙が止まらなくなってしまった。
夏至になったばかりなので、成田の夜明けは早い。
6時半になった。旅装を整えた凌はチエックアウトのために部屋を出ようとしていた。
その時、ドアがノックされた。ドアの前には、なんと悠希が立っている。女性らしいフェミニンなグレイシュモーヴのブラウスとベージュのラップスカートを着た悠希は「これから海外のリゾートに行くの」といっても不思議がない。だからこそ、このホリディイン東武成田でもまったく違和感は感じない。
「悠希......?」
「うふふ、会いたいから、きちゃった」
「きちゃったって.........」
凌は驚きのあまり声がでなかったが、廊下を見渡して悠希の手をとって部屋の中に導いた。
ドアが閉まると同時に悠希は凌に抱きついた。
「こんなところで、だめだよ.....。周りには会社の先輩たちがいっぱい泊まってる」
「一ヶ月は会えないんだよ、凌...」
「......」
「ひとりでいたら、寂しくって、死んじゃうよ」
声を押し殺して、悠希は凌の耳元で必死に訴えた。
実は凌も昨夜はベッドのなかに悠希がいないのが寂しかった。
就職活動でたいへんな悠希をおいてドイツに行くのが心苦しかった。
だからこそ、日本最後の夜は悠希を抱いてやりたかったのだ。
ふたりの思いと感情の波長が合致した瞬間、凌は悠希の唇に自分の唇を重ねた。悠希はそれを積極的に受け入れた。こうなると2人は激情を止めることはできない。しかし、2人に許された時間もほとんどない。あと15分で凌はチェックアウトして、空港にいかなければならないのだ。ホリディインのシングルルームの狭い空間で二人は激しく抱き合い、お互いの体をまさぐりあった。
悠希の身体は凌に開発されつくしている。どこが感じるか、どんな反応があるかは、凌は全部わかっている。
凌は薄手のブラの上から悠希の可愛い乳房を揉みしだいた。
「あ、アァン」
凌の手が優しく動く。
悠希はもう我慢できなくなってしまった。身体の中心で『女』が熱くなってきた。ズボンの上から凌のジッパーのあたりを触りはじめた。掌で激しく前後にこする。この動きに凌もすぐに反応して、どんどん固さが増してきた。
「固く、なって、きたよ....」
「悠希、気持ちいいよ」
悠希はその形を確かめながら触り続けた。
どんどん熱くなってきたのがわかる。
どんどん大きくなっていくのがわかる。
こうなるとズボンの上からでは我慢が仕切れない。ベルトを外し、ジッパーを下げると、右手を差し込んで、握り締めた。悠希の手の中に凌がいる。
「アァァァ、凌がほしい、凌がほしい、欲しい、欲しい、欲しいのぉぉぉ」
声を押し殺して悠希は絶叫した。その静かな叫びが凌の牡の激情に火をつけた。悠希を抱き上げると、シングルベットへ運んだのだ。
いつもであればブラウスのボタンを外して、悠希のかわいいバストをやさしく愛撫するのたが、今朝は時間がない。悠希を仰向けにベットの上にのせると、凌は悠希のベージュのラップスカートを捲り上げた。スカートの下は、シルクベージュのガーター・ストッキングとピンクのショーツだ。スカートを捲くられることがこれほど恥ずかしいことなのかを悠希は初めて知った。
それと悠希もショーツの前が固くなっていたし、前にしみができてしまっている。
「アッ 恥ずかしい....」
「すごく、エロティックだよ.......」
朝の光の中でみる悠希の下半身は新鮮な驚きと昂奮は凌に与えた。
凌はたまらなくなって、悠希のピンクのショーツを一気に足首まで下ろした。そして左足をショーツから外して両脚を広げた。そうすると悠希は条件反射でお尻をツンと突き出した。
悠希は凌と会う時はいつもアナルのお仕度をしている。
それとハンドバックの中にはコンドームを入れている。
未明に綺麗にしてきた悠希の菊花は小刻みに震えている。
「かわいいよ、ぴくぴくしているよ」
「ああぁぁぁ」
この歓喜の声を合図にして、凌は右手の指を侵入させた。
「ほら、入っているよ」
指の侵入に悠希の腰がまったく意思とは違うように動いてしまう。
悠希の前立腺ポイントを凌はすぐに探しだし、指の腹で小刻みにタンタンタンと叩きだす。
「うぅぅぅ、いいぃぃぃ」
「思い切り感じていいよ」
「アウン、アウン...」
ホリディ・インのシングルルームの狭いベッドで、服を着たまま情交を交わしている。
凌の出発の時間も迫ってきている。そんな切迫感と雰囲気にますます気分が上がってきて、悠希は身体中が大きな快感に包まれていくのを感じた。
「欲しい、欲しいの、凌が欲しいの.....」
確かにここで凌と悠希はひとつにならないと、集合時間に間に合わない。凌は上着を脱ぎ、ズボンとボクサーブリーフを素早く下ろした。悠希はハンドバックからコンドームを素早く取り出して、凌に手渡した。
「悠希、いくよ」
静かに叫んだ凌は、悠希の腰をぐっと引き寄せ、菊花を破った。
「あっ、痛...い...」
まだ充分に濡れてない悠希の菊花は凌の分身を痛みに感じる。しかしこの痛みがこんな風にして押しかけてきた自分への懲罰だと思うことにした。そして、すぐに痛みは薄れ女の性の快感がやってくることを悠希は知っている。
凌の掌に包まれたペニクリが昂奮で固くなっている。
そして、凌を受け入れた喜びと少し感じる痛みが交錯しながら、官能が徐々に昇っていく。
そこには少し乱暴な凌を求めている悠希がいる。荒々しい牡に征服されたい悠希がいる。
そうでもないと、凌がいない1ヶ月は耐えられない。そうでもないと、ストレスが多すぎる就職活動には耐えられない。
「あ... いやぁぁーーー 」
悠希の中から沸き起こった女の快感が、悦びの声をあげる。
その声に呼応するように凌は「自身」を奥深くに進めた。
悠希の目の前には凌のワイシャツとネクタイがある。
いつもの逞しい凌の胸板とはまた違う。
そして自分のブラウスとブラジャーをつけたままだ。しかし、凌は自分の中にいる。自分の中で暴れている。それは1ヶ月という不在期間を補おうとしている凌の優しさなのか....。
「うれしいぃぃ...」
感謝の想いをこめて、悠希はアナル周辺の筋肉の全てをつけて、凌をぎゅっと締め付けた。
「おおおぅぅぅ、あああ....」
ワイシャツとネクタイ姿の敏腕ビジネスマンは驚きと快感の叫びをあげた。
そして、その叫びを聞いた瞬間、悠希の身体にも信じられないほどの快感が走り抜けた。
「アッッッッッ、イイイィィィ、感じるぅぅぅ」
部屋の鏡は、ベッドの上でひとつになった凌と悠希が写っている。身体をぎゅっと抱かれ、キスを凌から貰えた時、「女の子になってよかった」と実感した。凌の動きを身体で感じる度に愛されていることを実感する。
そして、女の官能の波は次から次へと押し寄せてくる。耐えられなくなり、悠希は声を上げる。
<いつまでもこの時間が続いて欲しい.....>
叶わぬ望みだが、悠希はこう思うしかなかった。
ルフトハンザ航空711便のチェックインタイムは容赦なく迫ってくる。会社ではまだまだ若手の凌は集合時間に遅れるわけにはいかない。
しかし、いま自分の腕の中にいる可愛い女装子も途中でやめるわけにはいかない。きちんと天国に導いてあげなければならない。
凌はシングルベッドの上に居る悠希の肩に手を置いて、腰を突き上げた。
「あっ! いやぁぁーーー からだが変になっちゃう...」
「いいよ、悠希、素敵だよ」
「ああーーーっ 気持ちいいーーーーっ!」
「そうだよ、悠希! 天国にいっちゃっていいよ」
「あああぁぁ、すごいい...」
悠希は声をできる限り押し殺そうとした。ここはシングルルームだ。そこから男女の営み(ほんとうは男男の営みだが)の声が聞こえてはまずい。しかし、そんな自制心も長くは続かない。
凌の力強く、そしてリズミカルな男の突き上げに下半身を貫かれつづけ、悠希はついに天国へのテイクオフを迎えようとしていた。
「あああ.... もうだめ イクッ イクッ イクイクぅぅ」
そして、それと同時に凌の身体も硬直しはじめる。
「オォォォォォォ.....、俺...イクよ....、悠希....」
「わたしも...連れていってぇ.....、凌ぉぉぉぉ」
ふたりの愛の叫びとともに、悠希の身体の中で凌は男の精を激しい収縮ともに吐き出した。そして、コンドームをつけているとはいえ、それを一滴たりとも逃すまいという『女』の本能で悠希はその収縮を受け止めたのだ。
「ああーっ 熱い 熱い からだが熱いーーー」
凌は悠希の身体を抱きしめた。
悠希も凌の背中に手を回して、思い切り力を入れた。
「凌さん......」
「悠希....」
凌と悠希は瞳と瞳で見詰め合った。
「離れたくない....、寂しくなっちゃう....」
悠希はそうつぶやくと、再びアナル周辺の筋肉の全てで「凌」をぎゅっと抱きしめた。いま自分の中にいる凌を誰にも渡したくない。離れたくない。このまま別れたくない。ずっとこのまま成田のホリディ・インに二人だけでいたい。
しかし、時は無情であった。
ベッドサイドの電話が静寂を突き破るように鳴った。恋する「女」の切ない望みを知らぬかのように.... (完)